抗毒素製剤の高品質化、
及抗毒素製剤を用いた
治療体制に資する研究

お知らせ

2021.10.05ロナプリーブとソトロビマブ  〜SARs-CoV-2特異的中和抗体から広域中和抗体へ〜千葉丈先生より

2021年7月に特例承認されたロナプリーブは、当初は投与対象が入院患者に限られていたが、8月からの厚生労働省事務連絡「新型コロナウイルス感染症における中和抗体薬「カシリビマブ及びイムデビマブ」の医療機関への配分について」(以下事務連絡)では何回かの一部改正を重ねて、事前に役割分担及び責任の所在を明確化しておけば、保健所の介在によらず外来での投与ができることになった「事務連絡(質疑応答集の修正・追加)(令和3825日一部改正)」 。ただし実際には、最近報告された事務連絡(令和3 9 10 日一部改正) に記載された東京都・大阪府での実例では、保健所を介在している例もあるので、さまざまな使い方が共存しているようだ。令和3 9 17 日事務連絡(https://www.mhlw.go.jp/content/000834046.pdf)では、医療体制の整備が認められれば「往診」での投与も可能になった。中外製薬は、9月になって「外来診療においてロナプリーブの投与を行う先生方へ」(https://chugai-pharm.jp/content/dam/chugai/product/ron/div/doc/ron_gairaitouyo.pdf)を公表している。

9月17日事務連絡に記載されている東京都の実例報告では、発症後3−4日までにロナプリーブを静脈投与すれば、投与後2日までに41.5%が軽快すると報告されている。また、230人の対象者のうち、215人(93.5%)が軽快し、15人(6.5%)が非改善、死亡が0人(0%)であったという。報告された1,048例ら420例を抽出し、さらに、そこからクチン非接種の対象者を抽出したデータであるが、適切に投与すればデルタ株であっても(投与時期から、ほとんどがデルタ株だと推定される)高い治療効果が期待できることを示した重要なデータである。

上記のように、ロナプリーブ投与の医療施設や投与法が整いつつあり、その投与が活発化している状況で、9月4日に英グラクソ・スミスクライン(GSK)と米バイオベンチャーのヴィル・バイオテクノロジー社が開発したソトロビマブ(開発番号:S309/Vir7831/Vir7832)の特例承認の申請が出され、9月27日に「ゼビュディ点滴静注液」(ソトロビマブ) として承認された。

ソトロビマブは、2002年から流行したSARSの原因ウイルスSARS-CoV-1に感染して回復した患者のB細胞から取り出された抗体遺伝子を元にして製造された。米国NIHのガイドラインでは、対象患者や使用法はロナプリーブと同じであるが、ロナプリーブとは作用機序が異なる点を留意すべきである。

 

ロナプリーブは、SARS-CoV-2に特異的で、スパイクタンパク質のreceptor binding domain(RBD)に結合する中和抗体のカクテルであるが、ソトロビマブはコロナ関連ウイルスsarbecovirusclade1SARS-CoV-2関連ウイルス+SARS-CoV-1関連ウイルス)のスパイクタンパク質のRBDに存在する、糖鎖構造を含んだ共通の構造に結合する単一の広域中和抗体である。ソトロビマブのin vitroでの中和活性は高くないが、in vitroFc receptorを介したNK細胞などの活性化能があり、SARS-CoV-2感染細胞を殺傷できることが示されている。さらに、デルタ株やラムダ株を含む懸念される変異株・注目すべき変異株に対して活性を維持することが示され、ハムスターを用いた中和試験で有効性も示されたことにより(Andrea L Cathcart et.al.,bioRxiv 2021.03.09.434607)、海外臨床試験に進み、米国 FDAの緊急使用許可を得たという(GSK 9月6日プレスリリース)。

 

ソトロビマブは、このような経緯で開発されて、米国で最初に緊急使用承認を得た広域中和抗体製剤であるが、以下のような懸念がある。

  1. 海外臨床試験では、わずか1,057例で評価されており、その後のデルタ株に対する実臨床での評価が不明である(FDAのソトロビマブのFact Sheetの9月の改訂では、デルタ株へのin vitroでの活性は低下しているが保持されているとのこと)。
  2. 米国政府が購入したとの報道はなく、米国での評価と流通の実績が不明である。
  3. 中和活性が低く(Rappazzo CG, et al., Science. 2021 Feb 19;371(6531):823-829.) Fc receptorを介したNK細胞の活性化が起こるとすると、感染細胞の殺傷と免疫系の活性化のバランスが問題になると思われるが、その評価はなされていない。
  4. ソトロビマブを開発した米バイオベンチャーのヴィル・バイオテクノロジー社は、その後、より広範囲にコロナ関連ウイルスを中和する抗体S2X259を開発している(Tortorici MA, et al. 2021. PMID: 34280951)。

こちらが本命になる可能性があるが、将来への備えに止める可能性もある。

現在、広域中和抗体は、ソトロビマブに続いて、米国Adagio therapeutics社の中和活性の高いADG-2がグローバルな第2/3相の臨床試験に入っている。上記のS2X259は臨床試験に入っていないようである。このような激しい競争の中、国産の広域中和抗体になる可能性の高いシーズ抗体NT-193が開発されて、Immunity誌に発表された(10.1016/j.immuni.2021.08.025)。NT193抗体は、既存の種々の変異株を中和できるだけでなく、将来登場する可能性のある変異株であっても中和できる潜在力が実験的に証明された抗体医薬のシードだと、高く評価できる。この世界に誇れる国産の中和抗体が抗体医薬として開発され、我が国の中和抗体の安定供給の体制が構築される日が1日でも早く来ることを期待している。

参考記事:日経バイオテク記事「新型コロナ、幅広い変異株抑える国産の中和抗体シーズが登場」https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/21/09/07/08597/