抗毒素製剤の高品質化、及び抗毒素製剤を用いた治療体制に資する研究 [AMED阿戸班]

破傷風

clostridium

本邦では予防接種法により1968年からワクチン接種が開始されました。
2008年に行われた破傷風抗体価の調査により、
当時45歳以上(※2008年時点)ではわずか10%ほどしか予防域レベルの破傷風抗体価を維持していないことが明らかとなりました。
これらを考慮するとワクチン接種以前に出生した50歳以上(※2018年時点)には、
破傷風感染のリスクが高いと判断した場合には積極的に破傷風ヒト免疫グロブリンの投与を考慮しなければなりません。

破傷風の初期症状:くちが開かない。首が突っ張る。飲食物が飲み込みにくい。

破傷風について

 破傷風は、北里柴三郎が培養に成功した偏性嫌気性グラム陽性桿菌である破傷風菌(Clostridium tetani)が、産生する筋体外毒素によって神経症状をひき起こす感染症であり、致死性の経過をたどる場合もある。破傷風菌は芽胞の形で土壌中に常在し、創傷部位から体内に侵入するが、明らかな創がなくとも発症する場合があることに注意しなければならない。

 潜伏期間は約8日(3〜21日)とされているが、開口障害に始まる筋硬直が頸部から全身に広がる全身型が約8割を占め、その開口障害から全身症状(痙攣、後弓反張)が出現するまでの時間が短いほど重症である。

 予防方法として破傷風トキソイドの接種がある。本邦では予防接種法により1968年からワクチン接種が開始された1),2) 。2008年に行われた破傷風抗体価の調査により、45歳以上ではわずか10%ほどしか予防域レベルの破傷風抗体価を維持していないことが明らかとなった3) 。これらを考慮するとワクチン接種以前に出生した50歳以上には、破傷風感染のリスクが高いと判断した場合には積極的に破傷風ヒト免疫グロブリンの投与を考慮しなければならない。

 破傷風の特徴として、0.01 IU/ml以上と抗体価が十分に上昇している場合には、発症せず予防できることが挙げられるが、その陽性率は40歳以上で30%以下と極端に低下する4)。

 破傷風は、感染症法の5類感染症全数把握疾患に定められており、診断した医師には保健所への届出が義務付けられ、その発生動向が調査されている。

 平時での外傷初期診療時の破傷風対策には、適切な創傷処置と予防的免疫療法が主体となる。しかし、災害時においては医療資源が極端に不足するため、平時と同様な創洗浄、破傷風トキソイド投与を含めた創傷処置を行うことは困難であるため、破傷風患者の増加が想定される。1995年1月17日の阪神・淡路大震災では調査が行われず、本邦の震災関連破傷風の実態は不明であったが、2004年12月26日のスマトラ島沖地震・津波災害では、インドネシアのBanda Acehにおける破傷風の患者数は106症例、死亡率が18.9%と報告された5)。

1) Okada K, Ueda K, Morokuma K, et al. Seroepidemiologic study on pertussis, diphtheria, and tetanus in the Fukuoka area of southern Japan: seroprevalence among persons 0-80 years old and vaccination program. Jpn J Infect Dis 2004;57:67-71.
2) Takahashi M, Komiya T, Fukuda T, et al. A comparison of young and aged populations for the diphtheria and tetanus antitoxin titers in Japan. Jpn J Med Sci Biol 1997;50:87-95.
3) Tetanus in Japan as of Deember 2008. IASR 2009;30:65-6. [cited 2017 Feb 18] Available from: http://idsc.nih.go.jp/iasr/30/349/inx349-j.html
4) 高橋元秀.破傷風.病原微生物検出情報 2009;30:65-6.
5) Aceh Epidemiology Group. Outbreak of tetanus cases following the tsunami in Aceh Province, Indonesia. Glob Public Health 2006;1:173-7.